✦ 平安時代の神話 · HEIAN ERA MYTHOLOGY
序章 — 天狗の誕生
平安の世、比叡山の最も高い峰に一羽の大天狗が住んでいた。その名を星鴉(ほしがらす)といい、人間に転生した星の魂が山岳の修行によって覚醒した存在だという。星鴉の翼は黒く、しかし光に当たると星座の模様が現れた。
夜になると星鴉は空高く舞い上がり、消えかけた星を選んで翼で包む。翼の中で星は縮まり、水晶の欠片となる。これが「星の水晶」の誕生である。
第一章 — 詩人との出会い
ある月の夜、若き宮廷詩人・蒼月(そうつき)は山に迷い込んだ。詩の霊感を求めて夜の山道を歩いていた彼は、突然の嵐に遭い、岩陰に身を隠した。
嵐が止むと、目の前に青白い光が浮かんでいた。星鴉だった。天狗は詩人を無言で見つめ、その翼から一粒の星の水晶を取り出して蒼月の前に置いた。
第二章 — 水晶の力
星の水晶を手にした蒼月は、夜になると不思議な感覚を覚えるようになった。闇が語りかけてくる——星の配置、風の記憶、雲の行方。全てが詩の言葉になって流れ込んでくる。
蒼月が詠んだ詩は宮廷を震わせた。その美しさと深遠さは人間の言語を超えていると誰もが感じた。しかし蒼月自身は水晶を握るたびに、自分の記憶が少しずつ夜に溶けていくのを感じた。
終章 — 守護の代償
三年の月日が過ぎた。蒼月の詩才は頂点に達したが、彼は自分の名前さえ忘れていた。全ての記憶が詩の言葉に変わり、彼自身が生きた詩集となっていたのだ。
ある夜、星鴉が再び現れた。「水晶を返す時が来た」と天狗は言った。蒼月は水晶を返した。その瞬間、彼の記憶は全て水晶に吸い込まれ、星鴉はその水晶を夜空に放り投げた。
水晶は空に溶け、新しい星座になった。それが「詩人の星座」——今でも晴れた秋の夜に見ることができるという。蒼月は記憶を失ったが、微笑んでいた。彼の魂は永遠に夜空に刻まれたのだから。